天国にいる人にむかって、お元気ですかって書くのはへんかしら。でも、わたしはぜったいにとどかない手紙でも書いてみたいの。
やっと近ごろ、少しおちつきました。へやはそまつなやねうらだけど、わたしをすいてくれるお友だちは、前と同じよ。
アーミー。ロッティー。ベッキー。みんな前のようにわたしのへやへお話を聞きにきてくれます。ざんねんなのはアーミーとロッティーが前のようにたびたびこられないことです。
ふたりが先生や友だちからみつからないよう、やねうらべやまでくるのはたいへんなぼうけんなのです。
そのかわり、四番目のお友だちができました。名前はメルキセデク。ひげをはやしたしんしよ。おくさんも子どももいるの。メルキセデクもわたしと同じやねうらずまいよ。
わたしとベッキーのへやのあいだのなかにすんでいるの。つくり話なんかじゃないわ。だって、メルキセデクはねずみなんですもの。
ロッティーがはじめてわたしのへやにきた夜、うとうとしていると足もとでごそごそという音がしたの。見ると大きなねずみが、ロッティーがおとしていったビスケットのくずを食べているのよ。わたしはびっくりして声をあげそうになったわ。ねずみもびっくりしたらしくて、わたしの顔を見あげました。
わたしとねずみは、しばらくにらめっこをしていました。本当は、わたしはこわくてうごけなかったんだけど。それでもゆうきを出していってみたの。
「食べてもいいわよ。ねずみさん。」
ねずみは、私がいじめないということがわかったらしくて、ビスケットの大きなかけらをくわえました。
「どうぞ、お食べなさい。」
ねずみはビスケットをくわえて、かべのあなのなかにはいってしまいました。すぐかべのなかでねずみのさわぐ声がしました。
「子どもたちにもっていってあげたのね。」
わたしは子どもたちにビスケットをわけてやっているおとうさんねずみのすがたを思いうかべて、楽しくなりました。
こわかったねずみが人間のように思えました。それから、大きなねずみはちょくちょく、わたしの前に出てくるようになりました。
「あなたに名前をつけてあげないといけないわね。」
わたしはその大ねずみにメルキセデクという名前をつけたの。どうして、そんないいにくい名前をつけたかって?なんとなくメルキセデクっていう顔をしてるの。
ミンチン先生だって、わたしこそミンチンでございという顔をしてるし、ロッティーだってみるからにロッティーちゃんっていうかんじだわ。
パパ・・・
きょうパパに手紙を書こうとしたのは、本当はメルキセデクをしょうかいするためじゃないの。パパが生きていらっしゃるとき、わたしはパパに出す手紙に、つらいことやかなしいことは一字も書きませんでした。
でも、パパはもう天国へいってしまったんですもの。書いてもいいわよね。
きっとわたしはもうすぐパパのところへいくわ。
きょうも雨のなかを四回もおつかいに出されたの。いっぺんにようじをいいつけてくれないから、わたしは一日じゅう町を歩きまわっていなければいけないんです。ようふくはつんつるてんになってしまって、さむくて、さむくて。
くつもあながあいているから雨水がどんどんはいってくるの。からだじゅうがこおりつきそうになって、おつかいから帰ると、りょうりばんが、かんかんにおこって、ごはんを食べさせてくれないの。たのんだしなものをちゃんと買ってこないっていうの。わたしは雨のなかを町じゅうのお店をさがして歩いたんだけど、みつからなかったの。
だから、きょうは夕はんは食べていません。
さむさとひもじさで、わたしはしにそうです。もうすぐパパのところへいきます。
セーラはうけとる人のいない手紙をなきながら書きつづけました。おしまいには文字がなみだでかすんで見えなくなりました。
そのときです。かべのほうがさわがしくなりました。
「メルキセデク・・・・」
セーラはなみだをふいて立ちあがりました。
かべのあなの前に、メルキセデクがおくさんと四ひきの子どもをつれてすわっているのでした。
「あなたのおくさんと子どもなのね!」
なき声はいつも聞いていましたが、すがたを見るのは、はじめてでした。
「かわいいわ・・・」
セーラはしゃがんで子ねずみをのぞきこもうとしました。子ねずみたちは、おどろいてあなのなかににげこもうとしました。
メルキセデクがあわてて子どもたちをとめます。この人はやさしい人だからにげなくてもいいんだよというように。
「ごめんなさい、メルキセデク。おおぜいできてくれたんだけど、今夜はなにもないのよ。」
いつも夕はんののこりを少しもってきてメルキセデクにあげるのですが、きょうはセーラがかんじんの夕はんを食べさせてもらえなかったのです。
メルキセデクは「いいんですよ。」というように、おくさんと子どもたちをながめながらなきました。
「わたしもこれだけたくさんの家ぞくをかかえてがんばっているんですから、セーラさんもがんばってください。」
セーラには、そういうふうに聞こえたのです。
いえ、まちがいなくメルキセデクは、そういったのです。なぜならば、セーラが書きかけのびんせんをまるめてみせると、メルキセデクはあんしんしたように、かべのあなのなかへ帰ってしまったのですから。
さいごにおくさんねずみが、あなのなかからちょこんと顔を出しました。
「しゅじんがいつもおせわになっています。」
というように。
「こちらこそ・・・」
セーラはスカートのはしをつまんであいさつをかえしました。