14、ふたりのひみつ

「ねえ、知ってる?セーラたちのやねうらのパーティー。」
「のろまのアーミーがごちそうをはこんだんですって。」
「ミンチン先生にみつかって、セーラは、ものすごくしかられたんですって。」
「セーラは学校からおい出されるんじゃない?」
「あら、おい出されるのはベッキーだっていう話よ。」
 つぎの朝、学校じゅうがやねうらのパーティーの話でもちきりでした。生徒たちはセーラがどんな顔をしてみんなの前にあらわれるのかささやきあうのでした。
「まっさおな顔でいまにもたおれそうにしてやってくるわ。」
 ラビニアがからかうようにいいました。
 しかし、みんなの前にあらわれたセーラはいつもとはくらべものにならないほどすがすがしい顔をしていました。
 それはそうでしょう。おいしいものをたらふく食べて、あたたかいベッドでぐっすりねむれたのですから。
「あたし、あの人を見ると、ときどきこわくなるの。」
 ジェッシーがラビニアにささやきました。
「ばかね。いじをはってるだけよ。」
 そういうラビニアも、心のなかでは、セーラをうすきみわるく思っていたのです。
 ミンチン先生にやねうらべやのことをいいつけた人なのに、セーラはラビニアに会うなり明るい声をかけたのです。
「おはよう。」
 まるでいいつけてもらってありがとうといっているようです。
 そんなセーラを見てミンチン先生は、ますますはらをたてました。
「おまえは、あんなはずかしいことをしてしかられたということが、まるでわかっていないようだね。」
「いいえ、おしかりをうけたことはよくわかっております。」
 顔にほほえみまでうかべて、はきはきと答えるセーラを見て、ミンチン先生はますますくやしいのです。
「きょう一日、なにも食べられないということがわかってるんだろうね。」
「はい!」
 ミンチン先生は、くやしそうにセーラをにらみつけました。
 そして、ほかのおてつだいやコックたちはミンチン先生のきげんをとろうと、セーラをこきつかうのでした。
「はい、かしこまりました。」
「どうぞ、コックさん。」
「これでよろしいでしょうか。」
 セーラは誰にどんなようじをいいつけられてもはきはきと答えて、てきぱきとうごきました。
 自分のへやへ帰っていいといわれたのは夜の十時でした。セーラはどきどきしながら、屋根裏べやへのかいだんをのぼりました。今度こそ部屋のものがみんなきえてしまっているのではないかというしんぱいがあったのです。

あたたかい部屋におどろくセーラ


 セーラは、そっとドアをひらきました。
「あっ・・・」
 へやはしんじられないようなあたたかさです。テーブルの上には夕はんのしたくができています。
 きのうはなかったベッキーのおさらやフォークまでならべてありました。うすよごれていたかべがきれいにぬりかえられています。
 メルキセデクの出入りするあなのまわりが家の形にぬってあって、メルキセデクの名前が小さな文字で書きこんでありました。
「まほうつかいだわ!まほうつかいじゃなければ、こんなことはできるものですか。」
 セーラはこうふんして、かべをたたきました。ベッキーがまちかねていたようにとんできました。
「まあ!またなんですね。おじょうさま。」
 ベッキーはうっとりとへやを見まわしました。
 それからというものは、セーラがへやへ帰るたびにへやがごうかになっていました。かべには絵がかざられて、本のぎっしりつまった本だながならんでいました。
 てんじょうがななめになっているのをべつにしたら、セーラがむかしすんでいたりっぱなへやと同じくらいごうかになりました。さすがのまほうつかいも、ななめになっているてんじょうはなおせないようです。
 セーラもベッキーもしごとをおえてへやに帰るのが楽しみでした。楽しみがあるということは、ふたりが元気になることです。
 ふたりとも、「まほうつかい」のことはないしょにしていましたし、あれから誰もやねうらべやへきませんでしたから、だれもひみつを知らなかったのです。
 セーラはアーミーとロッティーをすばらしいへやにしょうたいしようとしましたが、だめでした。
 ミンチン先生がアーミーとロッティーをよく見はるようにめいれいしてあったので、こっそりぬけ出すことはむりでした。
 それからしばらくして、またまたすばらしいことがおこりました。それもミンチン先生の目の前でおきたのです。
 学校のげんかんにひとりの男が大きなはこをとどけにきたのです。うけとりに出たのはセーラです。ちょうど二かいからおりてきたミンチン先生がこわい顔でめいれいしました。
「早くあて名のところへもっておいき。」
 あて名・・・それは・・・

 やねうらの右のへやの女の子さま

 となっていたのです。
「これはわたしあてになっています。」
「おまえのところに?」
 みよりのないはずのセーラにこづつみがきたので、ミンチン先生はへんな顔をしました。
「あけてごらん。」
 ミンチン先生はきびしい声でいいました。
 セーラはいわれたとおりにこづつみをひらきました。
 なんということでしょう。くつしたからオーバーまで、すばらしいいしょうがひとそろいはいっていたのです。
 しかも、むかしセーラがきていたようなじょうとうな品ばかりです。
 小さなカードがついています。

 これはふだんぎです。
 よそいきは、またおくります。

 ミンチン先生のおどろきようといったらありません。みよりがないときめこんでいたセーラに、こんなこうきゅうなようふくをおくってくるお金もちのしんせきがいたらしいのです。
(ひょっとしたら、たいへんなことになりそうだわ・・・)
 よくのふかいミンチン先生は、頭のなかで、どうしたらとくするか計算しているようでした。そして、きゅうにやさしい声を出しました。
「どなたか、親切な方がいるようね。せっかくですから、さっそくきがえてらっしゃい。」
「でも・・・」
「きがえたら教室でべんきょうしなさい。今日はおつかいをしなくてもいいでしょう。」
 セーラはミンチン先生のかわりかたにあきれながらも、いわれたとおり、新しいようふくにきがえました。
 教室じゅうがさわぎだしました。
 すばらしいようふくをみごとにきこなしたセーラがはいってきたのです。
 ひさしぶりに見る「王女さま」のようなセーラです。ついさっきまで、ぼろぞうきんのようなようふくをきていたというのに。
「やっぱり、ふつうの子じゃないわ。」
 ジェッシーがラビニアにささやきました。
「またダイヤモンドの山でもみつかったのかしら。」
 ラビニアのいやみも、セーラのじょうひんなうつくしさの前にはなんのききめもありません。
「セーラ、ここへおすわりなさい。」
 ミンチン先生がゆびさしたせきは、セーラがむかしすわっていた「王女さま」のせきでした。
 その夜・・・セーラは手紙を書きました。

 すばらしいまほうつかいさま
 わたしはあなたさまの正体をさぐろうとしてこの手紙を書くのではありません。
 ただただ、おれいをもうしあげたいのです。わたしもベッキーもさびしくて、さむくて、おなかがすいておりました。それがいまはゆめのようなしあわせ。わたしはどうしてもおれいがもうしあげたくてペンをとりました。
 本当にありがとうございました!
 やねうらの女の子より

 セーラは朝、その手紙をテーブルの上において出かけました。夜、帰ってみると手紙はありませんでした。
(まほうつかいは手紙をよんでくださったんだわ・・・)
 ミンチン先生がセーラにようじをいいつけなくなったので、セーラはへやにいる時間が多くなりました。
 ベッキーのしごとも前より楽になったようです。ある夜、セーラはベッキーのために本を読んでやっていました。
 あかりとりのまどのほうで、ごそっという音がしました。セーラとベッキーが見あげると黒いかげがうごいていました。
「さるだわ。おとなりの子ざるよ。」
 セーラは立ちあがると、さるをへやのなかにいれようとしてまどをあけました。
「いらっしゃい。かわいいおさるくん。」
 インドでそだったセーラは、さるがさむさに弱いのを知っていました。
「ひっかいたりしませんか。おじょうさま。」
 ベッキーはこわそうにしています。
「人間のあかちゃんと同じよ。」
 さるはすぐへやのなかへはいってきました。
「いい子、いい子。」
 セーラはさるをだきよせます。
「どうなさるんですか。おじょうさま。」
「今夜はおそいからあしたかえしにいくわ。きょうはいっしょにねましょうね。」
 セーラはさるを自分のベッドに入れてやりました。
 サルはあかちゃんのようなねいきをたてて、すぐねむってしまいました。