「みなさん!セーラさんはきょう十一回目のたんじょう日をむかえることになりました。」
生徒たちのはく手にむかえられて、セーラの手を引いてあらわれたミンチン先生は、みんなを見まわしてえんぜつをはじめました。
セーラはまっ白なすその長いドレスをきて、かがやくようなうつくしさです。ミンチン先生も、とっておきのきぬのようふくをきて、とてもうれしそうでした。
「セーラさんのおたんじょう日は、ほかの人のおたんじょう日とはちがいます。」
ミンチン先生のことばにラビニアとジェッシーがささやきあいました。
「セーラさんですって。」
「ほかの人とちがうですって?」
ミンチン先生が生徒の名前に「さん」をつけたのは、はじめてではないでしょうか。
「セーラさんには、だいじなしごとがあります。おとうさまのたくさんのざいさんをついで、りっぱなことにつかうしごとです。」
「ダイヤモンドの山ね。」
ジェッシーがくやしそうにつぶやきます。
「セーラさんは、この学校でもっともりっぱな生徒さんです。セーラさんのフランス語とダンスは、この学校のほこりです。」
ミンチン先生のえんぜつを聞いているうちに、セーラははずかしくなって、うつむいていました。
ものすごくたくさんつぐことが、りっぱなことでしょうか。セーラがお金もちなのは、おとうさんのせいでセーラの力ではありません。
ミンチン先生のしゃべり方を聞いていると、お金もちの子はみんなりっぱな生徒ということになってしまいそうです。
ミンチン先生はセーラのりっぱさとおとうさんのすばらしさをながいことしゃべりつづけました。
セーラは、ほめられればほめられるほど、ふゆかいになってくるのでした。
それでも、ようやくミンチン先生のえんぜつはおわりました。
「では、こんなりっぱなパーティーをひらいてくださったセーラさんに、みなさんでおれいをいいましょう。」
生徒たちは声をそろえていいます。
「セーラさん。ありがとう。」
いちばん大きな声をはりあげたのはロッティーでした。セーラは、はずかしくて顔を赤らめながら、スカートをつまんでおじぎをしました。
「みなさん、ようこそいらっしゃいました。」
セーラは、へやのすみに立っているベッキーのほうにかるくほほえみました。
ベッキーはうっとりとセーラをみつめています。
「なんてうつくしいおじぎなんでしょう。本当の王女さまみたいですよ。」
ミンチン先生は、はじめからさいごまで、セーラをほめると、ほかの先生によばれて、へやを出ていきました。
ようやくかたぐるしいふんいきがなくなって、生徒たちははしゃぎはじめました。
ベッキーがほかのおてつだいさんたちと、たくさんのプレゼントのはこをはこんできます。
「わあ・・・おいしそう。」
アーミーがテーブルの上にならんだ色とりどりのごちそうに目をかがやかせます。
「おめでとう!セーラ。」
「王女さま。おめでとう。」
「ねえ、王さまからのプレゼントを見せてもらってもいい?」
ロッティーがセーラに聞きます。
「王さまのプレゼント?」
「だって、王女さまのおとうさんは王さまでしょ。」
まじめな顔でいうロッティーに、みんなは大わらいでした。セーラは、おとうさんがおくってくれた大きな人形のはこをあけました。
それは小さな子どもほどもある大きな人形でした。
きせかえセットになっていて、ドレスからふだんぎまで、ほんものと同じようふくが五ちゃくもはいっています。
生徒たちは、ためいきをもらしました。
なるべくセーラからはなれるようにしていたラビニアとジェッシーも、思わずみをのり出してしまうほどのすばらしさでした。
「しずかにしなさい!パーティーはとりやめです!」
とつぜん、かん高いミンチン先生の声がひびきました。へやの入り口のところに、まっ青な顔色をしたミンチン先生が立っていました。
セーラもほかの女の子たちも、なにがなんだかさっぱりわかりません。
「パーティーはとりやめだといっているんです!みんないそいで自分のへやにもどりなさい。セーラはここにのこるんです。」
ついさっきまでにこにこ顔で「セーラさん」とよんでいた人とは思えないほどおそろしい顔で、ミンチン先生はセーラをにらみました。
「さあ、へやにいきなさい。」
ほかの先生たちが、ふしぎそうな顔をしている生徒たちのせなかをおして、へやの外へつれていきました。
パーティーの会場には、セーラとミンチン先生だけがのこりました。ミンチン先生はにくらしそうにセーラをにらみつけました。
「・・・・なにか・・・あったんでしょうか・・・・」
おそるおそるできいてみたセーラに、ミンチン先生は、はきすてるようにいいました。
「おまえのおとうさんがしんだんだよ。ダイヤモンドの山をほるしごとにしっぱいして、一文なしでね。」
さっきミンチン先生がよばれて出ていったのは、そのことを知らせるためだったのです。おとうさんのべんごしという人が知らせにきたのです。
セーラのおとうさんは、ダイヤモンドの山をほるしごとにざいさんをぜんぶつぎこんでしまっていたのです。
しかも、ダイヤモンドが出ないうちに、いっしょにしごとをしていた友だちが、にげてしまったのです。
おとうさんは、ひどいショックとつかれでマラリアというびょうきにかかってしんでしまったのでした。
それにしても、ミンチン先生は、なぜこんなにおこっているのでしょう。それは、セーラのためにたくさんのお金をたてかえていたからです。きょうのたんじょうパーティーのひようもミンチン先生が出したものです。
とってもけちなミンチン先生も、セーラのおとうさんが一文なしになるなんて思いもよらなかったので、どんどん自分のお金をたてかえていたのです。おとうさんはいつも、たてかえてもらったいじょうのお金をミンチン先生におくっていましたから。
「おまえのおとうさんがしんだといっているんだよ!」
ミンチン先生は、さらに声をはりあげました。セーラがあまりにおちついているので、自分のことばが通じてないかと思ったのです。
セーラは青ざめた顔で、じっと立ちつくしていました。そのひとみが、きらりと光ってミンチン先生をみつめます。
「なんとかいったらどうなの。セーラ・クルーのおとうさんは・・・・」
そのとき、ドアのむこうでわあっとなきだす声がしました。ミンチン先生がおどろいてドアをあけます。そこにうづくまってないていたのはベッキーでした。
「こんなところで、立ち聞きしていたんだね。」
ミンチン先生は、いまにもつかみかかりそうないきおいで、ベッキーにせまりました。
「もうしわけございません。セーラさまが、余りにおかわいそうだったものですから・・・」
「セーラに『さま』なんかつけるんじゃないよ。」
そのとき、ミンチン先生のわきを白いかげが走りぬけました。セーラでした。
「どこへいくんです。セーラ」
「おじょうさま。」
だれのよびかけも聞こうともしないで、セーラは走りました。
(パパがおなくなりになった・・・あたしのパパがおなくなりになった・・・)
むねのなかでさけびながら、セーラはくるったようにはしりつづけるのでした。