5、うれしい十一さい

 月日がたつのは早いものです。
 セーラがミンチン女学校にはいって四年間がすぎました。セーラは十一さいになろうとしていました。
 あのなきむしのおちびさん、ロッティーももう七さいですから、セーラがこの学校にきたときと同じ年になったわけです。
 もうすぐ十一さいのたんじょう日をむかえるというある日、インドのおとうさんからセーラに手紙がとどきました。
(パパになにかあったんだわ・・・・)
 手紙のあて名の字を見たとき、セーラはどきんとしました。いつものたくましいパパの字ではありません。ひょろひょろとしたたよりない字なのです。
 セーラはむねをどきどきさせながら、ふうを切りました。

 セーラ・・・・
 パパはとってもつかれている。
 なれないダイヤモンドの山のしごとでくたくただ。
 こんなときに、小さなおくさまがいてくれたら、たすかるんだけどね。

 たったそれだけのみじかい手紙です。これだけのことを書くのがやっとといったかんじです。手紙のさいごのほうはインクがかすれていました。
(パパはびょうきなんだわ・・・・)
 手紙にはひとことも書いてありませんが、セーラはパパのからだがふつうでないことがわかりました。
 セーラはいそいでへんじを書きました。

 パパ・・・・
 わたしはダイヤモンドなんかいりません。
 わたしのダイヤモンドはパパです。
 ぜったいむりをしないでください。
 からだのぐあいはいかがですか?本当のことを教えてください。
 わたしはいつでもインドへとんで帰ります。
 だってわたしはパパの小さなおくさまですもの。

 へんじのかわりに、パパからのすばらしいおくりものがとどきました。パパがわざわざパリにちゅうもんしてくれた大きな人形です。
(パパは元気になったんだわ・・・・)
 お人形といっしょについてきたおいわいのカードの字は、元気なときのパパの字でした。

 そして、セーラは十一回目のたんじょう日をむかえたのです。ミンチン先生のきぼうでセーラのたんじょうパーティーは学校はじまっていらいのはなやかなものになりそうです。
 パーティーの日の朝、さっそくプレゼントがとどきました。それは茶色の紙につつんだ小さなものです。
(ベッキーだわ・・・・)
 セーラはすぐわかりました。そっとあけてみると、フランネルというやわらかいぬので作ったはりさしでした。とても、きれいとはいえないものです。はりさしには黒い頭のまちばりがなん本かさしてありました。
「あら・・・」
 はりをよく見たセーラは目をまるくしました。黒いはりで「オメデトウゴザイマス」という字が書いてあったのです。
「ありがとう、ベッキー」
 セーラは、うれしくてなみだぐみそうになりました。

セーラとベッキー


 学校へ通ったことのないベッキーは、ほとんど字が読めません。そのベッキーが、たどたどしい字で「おめでとう」をいってくれたのです。
(どんなにたいへんだったでしょう・・・・)
 ねむたい目をこすりながらプレゼントを作ってくれたベッキーのすがたを思いうかべて、セーラはむねをつまらせました。
(あら・・・・)
 おくりぬしのカードを見たセーラは、へんに思いました。ベッキーではないのです。きれいな字で、
『ミセス・ミンチン』と書いてあります。
(へんだわ・・・・)
 みえっぱりのミンチン先生が、こんなぶかっこうなプレゼントをくれるわけがありません。
 そのとき、ドアがそっとひらいてベッキーのしんぱいそうな顔がのぞきました。
「・・・お気にめしましたでしょうか。おじょうさま。」
「やっぱり、あなただったのね!ありがとう。本当にありがとう!」
 ベッキーはゆめを見ているようでした。セーラがこんなによろこんでくれるなんてそうぞうもしなかったのです。
「ありがとうございます!おじょうさま。」
 贈りぬしがおれいをいうのはあべこべですが、ベッキーはいわずにはいられなかったのです。
 うれしなみだがぽろぽろとベッキーのほおをながれました。
「おじょうさま。うれしくてもなみだが出るんですね。」
 つらいときにしかなみだをながしたことがないベッキーは、とんでもないことをはっけんしたようにいいました。
 そんなベッキーを見ていると、セーラもしらずしらずのうちになみだぐんでしまいます。
「ベッキー・・・このすばらしいおくりものに、どうしてミンチン先生のめいしがついているの?」
「おくりものには、めいしをつけなくてはいけないと思ったんですけど、わたしはめいしなんかありませんから・・・・それで・・・・」
 ベッキーはちりとりのなかにすててあったミンチン先生のめいしをつかったのでした。
「そうだったの・・・ベッキー。」
 セーラはそんなベッキーが、たまらなくすきになって、ぎゅっとだきしめました。
「いけません。おじょうさま。だいじなドレスがよごれます。」
 そんなときでも、ベッキーは、セーラのきていた白いドレスに自分のふくのせきたんかすがつくことをしんぱいしているのです。
「ドレスは買えるわ。こんなすてきなプレゼントは、どこへいったら買えるの。」
「おじょうさま・・・・」
 ベッキーは声をあげてなきました。
 なきながらセーラのからだのぬくもりをぜんしんでかんじていました。
(人間のからだって、なんてあたたかいんでしょう・・・・)
 みなし子のベッキーが、はじめてあじわうあたたかさでした。
「おじょうさま・・・・」
 もうベッキーは、セーラのドレスのよごれは気にしません。はじめてのあたたかさをむさぼるようにあじわっていました。
「ベッキー、わたしのたんじょうパーティーに出て。」
「わたしが、パーティーに?」
 ベッキーはおどろいてセーラからはなれました。せきたんはこびの女の子が、学校一の生徒のパーティーに出たら、どんなことになるかをいちばん知っているのはベッキーでした。
「セーラ、気でもちがったんじゃないでしょうね。」
 思ったとおり、ミンチン先生は顔色をかえてはんたいしました。
「ベッキーは、わたしのお友だちなんです。」
「まあまあ、せきたんはこびのベッキーが、王女さまとよばれているあなたのお友だちですって!」
 ミンチン先生はあきれてものもいえないというようにセーラをみつめました。
 けっきょく、ミンチン先生はセーラのねっしんさにまけて、ベッキーをプレゼントのはこをはこぶかかりにしてくれました。
「ありがとうございます。おじょうさま。」
 たとえおてつだいやくでもパーティーの会場にいられるということは、ベッキーにとってゆめのようなことでした。
「ごめんなさいね。あなたをせいしきにしょうたいできなくて・・・・」
 セーラはすまなそうにあやまるのでした。