―新型コロナウィルスによる感染症が拡大する時期のこころがまえ―
補足資料
Q:マスクが大嫌い。でも、外出する機会がある。どうしたらいい?
A: *感覚過敏から不快感を味わっていることがあります。
紙の感触が苦手でも、布ならOKという子がいます。布マスクや他の素材で口周りをおおうことも(ハンカチやスカーフ、キッチンペーパーなど)も試してみましょう。
*「うつす」ことを予防するには、具合の悪い時には人前にでるのをやめます。また、布や紙なので咳をするときや大きな声で話すときに口周りをおおいます。
*「うつる」ことを予防するには、具合の悪い人のそばによらない、また人との距離を2メートルぐらい(お互いが両手を横にのばしたぐらい離れるか、相手から5歩ぐらい離れる)あけて話をします。
*マスクはうつらないように(ウィルスに感染しにくく)するうえで完璧ではありませんが、口や鼻を自分の指で触りにくくすることができたり、唾や飛沫(咳をするときに飛ぶしぶき)が直接目の前や近くにいる人の口や目などにつくのを防いだりすることができます。
Q:前は手洗いがいい加減でしたが、今は手洗いばかりして、手が真っ赤にあれています。
A: *手洗いは、①石鹸を付けて、②20秒ぐらい、③「爪」「指先」「ゆびの間」「手のひら」「手の甲」「手首」までいつもより丁寧に、そして④しっかりふいて乾かし、⑤できたら保湿クリームを塗る、までをひとつのプロセスにして習慣化します。
*「ハッピーバースデーツーユー」を二回歌うぐらいの長さ(20秒ぐらい)で洗おうといってもいいし、YouTubeにいろいろな動画がでているので、気に入ったものをまねしてみるといいでしょう。
*保湿クリームはべとつくのを嫌がるようなら、サラサラタイプがあります。試してみましょう。
Q:温度の差や、緊張するともともと咳が出やすい。人前で咳き込むことが心配。
A: *マスクを着用していても、今の時期は人前で咳き込むことがあるとはらはらしますね。
病気でもなんでもないのに、急な温度変化で咳き込んだり、鼻水が出たりする子がいます。もともとアレルギー体質の子も多いです。
マスクができるなら、マスクをさせて、マスクの表面に「うつす咳ではありません」なんて書いておくという工夫をしている人もいます。
*マスクを嫌がるようなら、温度が急に変わるような場所に入ったら、人が少ない(いない)隅に行くようにして、①手のひらでなく腕で口をおおう、②手で口をおおったら、ウエットティッシュで手をすぐふく、③大きめのタオルを持って出かけ、それで顔全体をおおい、タオルはふりまわさずビニールにしまう、などを試してみてください。
*感染症による咳き込みでなければ飛沫による感染の心配はありませんが、口をおおうということは、エチケットでもありますから、この機会に覚えてもらうのもいいでしょう。咳き込んだ後、「失礼しました」「すみません」などと一声かけるという習慣もつけていきましょう。
*万が一、感染による咳の場合には、飛沫が付着した部分やものをふりまわしたりせず、すみやかにビニール袋などに入れて口をしばっておくことも忘れないように。
Q:多動傾向があるため、家の中でじっとなんてしていられません。家の中でストレスためてしまい、自傷をするようになりました。
A: *政府も学校の先生も、体を動かして楽しむことをすべて否定してはいません。一日一回ぐらい、ひとりで(あるいは家族と二人ぐらいで距離をとって)、一時間以内で軽い運動(なわとび、体操など)や、よく行く場所まで散歩をするということを日課に含めてみましょう。
*公園よりは、自然の中を歩くことをおすすめします。公園で遊具を触る場合にはアルコール消毒液が含んでる紙でふき、触った後も、手をふいておきましょう。もちろん、外出後は手洗いをきちんと。
*外出時は、人との距離を2メートルぐらい(二人が両手をのばしてくっつくぐらい、あるいは5歩ぐらい)あけるようにします。
*多動傾向がある子どもの場合、体を動かすことは気持ちを落ち着かせるためにも大切です。外出しなくても、家の中で体を動かすことをしてみましょう。必ず、換気をし、人との距離をあけながら。
Q:毎週木曜日は図書館にいっていたのに、今は閉まってしまったんです。そしたら木曜日になるとパニックをおこして、大騒ぎです。
A: *習慣になっている行動が突然できなくなるのは、彼らにとってとても苦しいし、不安で仕方がありません。
「いつもどおり」は彼らの生活に安心と安定を与え、それによって安全感も意識できるようになるのです。
できたら、このような状況の中でできる「新しい習慣」を作ってみましょう。たとえば、毎日8時に洗濯機のスイッチをいれる、毎週土曜日は子どもたちでカレーライスをつくる、なんてことでいいのです。
*どうしても納得しなければ、一度一緒に図書館までいってみて「閉館」というサインを確認したり、写真にとっておいたりするといいでしょう。行きたくなったら、その写真を見て、一緒に確認します。
Q:いまのうちに勉強の遅れをとりもどそうとしたいのに、ゲーム三昧です。どうしたら?
A: *一日のスケジュール表を子どもと一緒につくってみましょう。その時、親が主導権をとって「すべきこと」に偏らないように。子どもが「したいこと」もうまくもりこんで両方をバランスよく入れるように助言してください。
*過集中を防ぐため、ひとつのことをする時間を30分とか60分までなどと区切って、キッチンタイマーなどで区切るようにします。部屋を変えたり、場所をかえたりするのも気持ちや思考の切り替えに役立つことがあります。
*過集中の状態になってからだと切り替えはむずかしくなります。本人の意志の問題でもないのですし、本人も実はつらかったりするので、たとえ、「集中しているからそっとしておこう」と思っても、切り替えていく体験を子どもにしていってもらいましょう。将来にもやくにたちます。
*大人も不安な時に逃避したくなることがあります。逃避もりっぱな自分を守る方法、自分を大切にするスキルだということを忘れないでください。だから、ゲームの時間などもきちんと作ってあげましょう。
*この機会に勉強をさせたいと思います。追いついてもらいたいと。「すべきこと」は短く切って、「したいこと」の間に入れて、少しずつにします。また、新型ウィルスについて調べてみたり、パンデミックの映画をリストにしたり、マスクの歴史を調べてみたり、国によって異なる対応をまとめてみたり・・・・なんてことも子どもが興味をもてば、自分で調べさせてまとめることをうながすと、総合的な学習ができるかも。
Q:いつまでこうした生活が続くのか、予定されていたイベントの中止があいつぎ、変更が苦手な子どもはイライラすることが増えて、私も落ち着いて仕事や自分の時間をもつことができなくなって、喧嘩が増えてきました。
A: *見通しがたたないことや、突然の変更、中止といったことに対して、だれよりも緊張や不安を感じやすい子どもたちです。けれど、今の状況は、誰も見通しをもてません。小さな目標をたてて、それができたことを確認しあうことで、短めの「見通し」をもっていきましょう。たとえば、一日のスケジュール表をつくるようにして、一日の見通しをもつようにしたり、朝の20分読書という日課を一週間続けたら、ゲームの時間を増やすなどという目標を作ったりするのは、生活の中に「見通し」をつくって安定した気持ちを生みます。
*見えない出口に不安を高めている場合には、ひとりぼっちにしないようにして、「ひとりで戦っているのではなくて、みんなで戦っています」「力を合わせると、ひとりでできないことができるようになります」ということを伝えていきます。
*発達障害やその傾向がある子どもたちは、共感能力がないなどといわれることがありますが、大切な人の気持ちを非言語的にキャッチする力は長けています。なので、大好きなお母さんや担任の先生が不安だったり、いらいらしていたりしてストレスを抱えていると、子どもはその状態を受け取り、自分も不安になったり、いらいらしたりしてきます。大人のほうの気持ちの切り替えを工夫してみましょう。
*親のストレスを少しでも軽減するためにも、上手な「手抜き」や「息抜き」を取り入れしましょう。気になってしまう感染症のニュースから離れてみましょう。損得よりも好き嫌いで動く機会を増やしましょう。他人の評価で自分を抑えこまないで、自分ができたことはなんであれ、おおげさに自分をほめてあげましょう。
*子どもをどなりたくなったり、手が出そうになったら、子どもとの距離をあけて、軽く目をつぶり、鼻で深呼吸を3回ぐらいしてみましょう。子どもから離れられた自分をほめながら。
Q:子どもは感染しにくいっていわれているし、感染しても症状が軽いといわれるけど、おばあちゃんがいるので感染するより、感染させることが不安で仕方ないです。
A: *「うつる」よりも、「うつす」ことが不安ということがありますよね。でも、「うつさない」ためにも、まずは「うつらない」ことが大切です。
*東日本大震災の時の学びの一つ、「つなみてんでんこ」は、まずは自分で自分を守ることという教え。それぞれが「自分」に責任をもって自分の命を守れたら、みんなで生き延びられます。
*感染症拡大を防いでみんなで安心して生活するためにも、まずは、「がまん」と「思いやり」で自分と他人を感染症から守ります。手洗い、うがい、マスク、人と距離をとる、そして、栄養をとって、笑って、軽い運動をして、よく寝て、人と楽しい話、すてきな話をして、できるだけいつも通りの毎日を過ごしましょう。
*「絶対にうつらない」はむずかしいことも子どもと共有しましょう。「うつった人」を責めたり、批判したりは間違った行動であることを教えます。
*もしも、具合が悪くなったら、無理をせず、外出はひかえ、最寄りの保健所にある帰国者・接触者相談センターに電話をして指示をうけましょう。不安なら、学校の先生や主治医にも電話で相談してみましょう。
一人で抱えて悩まなくてOK 子どもが「うつる」ことに対して、自責の念を持つ必要はありません。
参考サイト 厚労省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kankou_iryou/dangue_fever_qa_00001.html#Q28
Q:具合が悪い時というのが、うちの子どもはわからないようです。もともと、痛みにも鈍感だし。
A: *彼らは身体的にとても過敏なところがある一方で、とても鈍感だったりして、自分の「具合」がよくわからないことがあります。そのため、今の時期は、毎日同じぐらいの時間帯に体温を測るようにします。数値をどこか見えるところに記入しておくといいでしょう。自分の状態を「見える化」します。
*37.5度以上の場合には、4日ほど様子をみて(ぜんそくなどがある場合には2日ほど)、電話で最寄りの保健所にある帰国者・接触者相談センターに連絡をしましょう。様子を見ている間も、保護者が一人で抱えず、信頼できる人に心配を共有しておくことも大切にしてください。
*普段とても低体温の子どもの場合には、37.5度にならなくても、気にしておく必要があります。
あくまでも37.5度は目安です。子どもそれぞれのユニークさをこういう時も見失わないことです。
*体温以外に具合のいい悪いをチェックするのに、①おしゃべりの度合い(急に静かになっている)、②イライラの頻度、③睡眠や食欲の異常(寝ない、一方で一日20時間も寝ている、食欲が急になくなる、味がない、においが感じられないといって食べようとしない等)、④好きなことに関心がない、⑤自己刺激行動や自傷行為、他害行為が増えるなども一緒に注意して観察しておきます。
Q:もとから、目に見えないものについて理解をすることがむずかしく、ウィルスが見えれば危機感ももつのでしょうがいまひとつわかっていないで、いつもどおりの言動で周りをピリピリさせてしまいます。
A: *見えないものを理解すること、見えないものに対して正しく怖がることはむずかしいです。少しでも「見える化」してみるのも手です。たとえば、ウィルスは生物ではないのですが、擬人化して絵にしてみて、その特徴を理解し、そのウィルスから自分や家族、友だちをどう守るかをストーリーにしていくというのはどうでしょうか。少しでも「見える化」することが理解の助けになります。
*実はこういう時、つまり、「いつもと違う」時に大切にしていいことは、「いつもどおり」なのです。もちろん、予防についての知識(特に手洗い)と感染したときの配慮(外出しないなど)は紙に書いて見えるところに貼っておきましょう。それ以外は、「いつもどおり」でいることを尊重してあげてください。感染症のニュースを見たくても、いつも観ていたお笑い番組やアニメをみせてあげましょう。
*目に見えないからといって、彼らが何もわかっていないというのは誤解です。気圧の変化など、目に見えないような宇宙の動きに敏感なのも彼らです。目に見えない不安には、目に見える安心の共有がとても大切です。寂しさを軽減するには、不安の共有より安心の共有をおすすめします。
Q:外に出てはいけないといわれると、一切でたがらないし、親がどうしてもやらないといけない用事をすませるため外出しようとするとすごく怒ってきて、先日は、大喧嘩になってしまいました。
A: *彼らは、ルールがあれば、その通りにしたいという気持ちを強く持っています。ですから、「外出をひかえなさい」といわれると、それを守りますし、自分だけでなく家族や友人に対しても厳格に守らせようとします。
*彼らにルールを具体的に教えます。「不要不急」といわれても、正直いって大人たちも迷います。ここは欧米での表現を参考にしてみましょう。すると、もう少し具体的にわかります。
フランスでは「生活に必要な食べ物を買う」、「通院や薬を手に入れる」、「30~60分ぐらいの一人でできるジョギングや犬との散歩を一日一回する」、「家にいては出来ない生活のための(在宅勤務ではできない)仕事をする」、「障害や疾患をもった家族の介護をする」「行政や裁判所からの呼び出しででかける」では外出できる、と説明されています。わかりやすいですね。
*できるだけ、曖昧な表現を避けて、子どもに具体的に教えてあげてください。もちろん、上記のような外出は、いずれもマスクや人と距離をあけること、手洗い、消毒などをこころがける必要があります。
Q:日々、感染が拡大していき、これからどうなるかわからない状況が続くと、無力感を感じて、何のやる気も起こらなくなるんです。どうしたらいいでしょう。
A: *専門家がワクチンや治療薬を開発してくれない限り、どうしようもないのかと思うと、為すすべなく、ただ待つしかない状況の中に長くいると、だれでも「無力感」が強まっていきます。
*私たち専門家でない人間にも積極的、主体的に協力できることがあるのです。それは、周りの人、特に高齢者や、基礎疾患をもった人たちのことを考え、医療崩壊が起こらないように、自粛要請がある間は、できるだけ人との距離をとって「家にいる」ことです。
*他にも、自分や社会のために新しい目標をたてて、それをめざしてみることもおすすめします。
*自分たちが、今闘っている世界的な出来事に参加して、社会の一員として何かに取り組めているという意識を強めることは、無力感を乗り越えるのを助けるだけでなく、心の傷を心の力に変える手助けをします。
2020年4月3日
前川あさ美 (臨床心理士 公認心理師 東京女子大学)
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